江戸川乱歩
1: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:20:14 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「探偵小説家は二種類ある」

彡(゚)(゚)「一つは犯罪者型とでもいうか、犯人の残虐な心理を重点的に描写するタイプ」

彡(゚)(゚)「もう一つは探偵型とでもいうか、理知的な探偵の推理中心で犯罪者の心理にあまりこだわらないタイプや」

彡(゚)(゚)「ワイは後者にあたる探偵小説家や。本格派ともいわれるな」

彡(゚)(゚)「探偵小説家は犯罪を取り扱う商売やが犯罪者ではない。むしろワイほど道徳的な人間もおらんという自負さえある」

彡(゚)(゚)「そんなワイが偶然とはいえこの事件に関わってしまったのがそもそもの間違いやった」

彡(゚)(゚)「ワイの道徳観が少しでも欠けていれば、今頃美しい女房と財産に恵まれて暮らしていたかもしれん」

彡(゚)(゚)「あれはそう、去年の十月半ば頃に博物館に行ったのが全ての始まりやった」

~~~~

2: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:20:42 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「博物館に来たけど全然人おらんなぁ。静か過ぎて足音も響いて聞こえるわ」

彡(゚)(゚)「お、これが目当ての仏像やな」

彡(゚)(゚)「……」

彡(゚)(゚)「……!」

/|i、゚ヮ゚ハレ.

彡(゚)(゚)「(ビックリした……他に客おったんか。この人も仏像目当てか?)」

彡(゚)(゚)「あ、あの……」

 

3: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:21:22 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「はえ~あの有名な実業家の矢野さんの御夫人で」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええ、私探偵小説が好きで、特にあなたの小説のファンでもあるの」

彡(^)(^)「そう言ってくれるのは作家冥利に尽きるってもんや」

彡(゚)(゚)「(右頬の黒子に八重歯がチャーミングやな)」

~~~~

彡(゚)(゚)「それ以来ワイと彼女――フェリスさんは手紙のやり取りをする仲になった」

彡(゚)(゚)「フェリスさんは隠してたみたいやけど、最初に会った時にチラっと見えてしまったんや」

彡(゚)(゚)「丸髷のうなじからおそらく背中まであるやろう赤痣のようなミミズ腫れが……」

 

4: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:21:45 ID:OGRo
期待

 

5: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:21:51 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「手紙のやり取りは数か月続いた」

彡(゚)(゚)「年が明けて二月頃、彼女の手紙に妙な部分が見え始めた」

~~~~

彡(゚)(゚)「お、今日も手紙が届いとるな」

彡(゚)(゚)「えーと……ん? 『この頃大変心配なことが起こりまして夜も眠れません』?」

彡(゚)(゚)「どういうことやろ。えぇと続きは」

彡(゚)(゚)「『先生は同じ探偵小説家の原住民という方とお知り合いではないですか。その方のご住所が分かりましたら教えていただけないでしょうか』」

 

6: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:22:15 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「原住民……人嫌いで有名な犯罪者型の作風の探偵小説家や。作家の集まりにも一度も顔を出さんから個人的な付き合いはないけど」

彡(゚)(゚)「それに去年の半ばから一切書くのをやめて誰にも言わず引っ越したみたいで、どこに住んでるのかも分からんそうや」

彡(゚)(゚)「ワイも知らんしとりあえず分からんって返事書いとくか」

数日後――――

彡(゚)(゚)「返信の葉書が来とる。えぇと『一度ご相談したいことがあります。お宅にお伺いしてよろしいですか?』」

彡(゚)(゚)「相談って何やろ。まぁええか、久しぶりに会えるのが楽しみや」

彡(゚)(゚)「お待ちしてます……っと」

 

7: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:22:49 ID:zzfk

翌日――――

/|i、゚ヮ゚ハレ.「やきうさん、突然こんな相談をして迷惑ではないかと思ったのですが他に当てもなく申し訳ございません……」

彡(゚)(゚)「いやいや、ワイに出来ることならなんでも聞くで」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「本当に気味の悪い事なんです。ええと、どこから話せばいいのか……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「では順番にお話ししたいと思います。私は静岡の出身で、高校卒業間近までごく普通の生活をしておりました」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「たった一つの不幸が三年生の時に初梵(しょぼん)という男性とお付き合いしたことです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「何故それが不幸なのかといいますと、実はちょっとした好奇心からお付き合いしただけで、本当に好きだったわけではなかったのです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「しかしあちらは真剣だったようで段々しつこく付きまとうようになってきました」

彡(゚)(゚)「ほーん、ストーカーってやつやな」

 

8: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:23:29 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「深夜に家の外をうろついていたり脅迫状が届いたりして大変でした」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「そんな時に家族に不幸が起きて――私にとってはむしろ幸いだったのですが――父が事業に失敗して多額の借金が出来てしまったのです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「とても返せる額ではなかったので、ほぼ夜逃げ同然に一家揃って知人を頼って引っ越しました」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「学校は卒業目前に中退になりましたが、一方で初梵から逃れることも出来たのです。なので私にとっては幸いだったわけです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「その後すぐに父は体調を崩し病気で亡くなってしまい、しばらく母と二人で生活していました」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「そこで今の夫である矢野さんと出会ったのです。歳は十以上も離れていましたがとても真摯なお方で、すぐに結婚が決まり母と共に東京へ出たのです」

 

9: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:23:50 ID:lM3i
見とるで

 

11: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:24:26 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「結婚三年目に母が病気で亡くなり、夫は仕事の都合で二年ばかり海外へ行ってました」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「一人で暮らすことになった私は茶道や華道の教室に通って淋しさを紛らわせていました」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「夫は海外で事業を成功させていたようで、同業者の間でも有名になって一昨年の暮れに帰国しましたの」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ここから本当に恥ずかしい話なのですが、私結婚の時に夫に嘘をついてしまったんです。初梵の事を隠してしまったんです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「夫の他に男を知らないと言って初梵との関係を隠してしまって、今でもその嘘をつき続けてるんです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「私、初梵をすっかり忘れていて、突然初梵の名前で手紙が届いた時はしばらく誰だか思い出せないくらいだったんです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「七年前の嘘がこんな形で私を苦しめることになるとは思って見ませんでした。これがその手紙です。読んでみてください」

彡(゚)(゚)「どれどれ……」ペラッ

 

12: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:24:58 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「『フェリスさん、私はとうとう君を見つけた。矢野という今の君の姓も分かった』」

彡(゚)(゚)「『君はまさか初梵を忘れてはいないだろう。私が君に捨てられてどれだけ苦しんだか分かるまい』」

彡(゚)(゚)「『苦しみは嘆きとなり、恨みとなり、復讐の念へと変わっていった』」

彡(゚)(゚)「『貧乏だった私は復讐を忘れるほど働き続けたが、三年前に予期せぬ幸運が巡ってきた』」

彡(゚)(゚)「『事業に失敗しどん底にあるとき、憂さ晴らしに書いた小説が縁となって、今では小説で飯の食える身分となったのだ』」

彡(゚)(゚)「『小説が好きだった君は多分原住民という探偵小説家を知っているだろう。彼はもう一年ばかり何も書いていないが、その原住民こそが私なのだ』」

彡(゚)(゚)「『私の血みどろな小説は君が私に植え付けた執拗な復讐心から生まれたのだ』」

 

13: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:25:34 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「『安定した生活を得た私は金と時間を君を探す努力に費やした。そしてフェリスさん、ついに私は君を見つけ出したのだ』」

彡(゚)(゚)「『私には妻がいる。だからといって恋人への恨みを忘れたわけではない』」

彡(゚)(゚)「『私は小説の筋を考えるのと同じように復讐の手段を考えてきた。それをいよいよ実行する時が来たのだ』」

彡(゚)(゚)「『計画の全容を話すことはできないが、その一端を知らせよう。例えば私は君の身の回りに起こった出来事を全て君に知らせることができる』」

彡(゚)(゚)「『二月三日、復讐者より。我が生涯より恋を奪いし君へ』……」

彡;(゚)(゚)「なんやこれは……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「私原住民という名前は以前から知ってたんですが、それが初梵のペンネームだとは知りませんでした」

彡(゚)(゚)「身の回りで起きた出来事が随分事細かに書いてあるけどこれはホンマなんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「記憶違いもあるとは思いますがほぼ事実です。私、夫の親類のほかには身内もいませんし、どうすればいいのでしょうか」

彡(゚)(゚)「よっしゃ! ワイが力になったるで!」

 

14: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:25:55 ID:mkDU
まさかの書き溜めか
ええぞイッチ

 

15: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:26:04 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「これほど巨細に行動を知るには矢野家の召使いを買収するか、自分が忍び込んで見ているかせんと不可能や」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「でも召使いは長年住み込みで働いてる方ばかりで、門や塀は夫がかなり厳重に作ったので忍び込めるかどうか」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「それに忍び込めたとしても召使いたちの目に触れないで監視するのは難しいと思います」

彡(゚)(゚)「そうなんか……ほんなら誰かから聞きだしたっていうのが一番ありそうやな」

彡(゚)(゚)「まぁワイにも作家や編集者のツテがあるし、そこから本人に通じて掛け合ってみるから心配し過ぎない方がええで」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「そうですか……是非お願いします」

彡(゚)(゚)「それから、この事は御主人には一切話さない方がええ。フェリスさんの秘密を犠牲にするほどの大した事件やない」

 

16: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:26:54 ID:zzfk

~~~~

彡(゚)(゚)「正直なことを言うと、その時のワイは原住民を軽く見ていた。たかが小説家に何ができるんや、と」

彡(゚)(゚)「せいぜいそれっぽい手紙で怖がらせるくらいで、それ以上のことなんてできるはずがないとたかを括っていたんや」

彡(゚)(゚)「ただ、原住民の居場所を突き止めるのだけは実際にやろうと思っていた」

彡(゚)(゚)「自分と正反対の作風の原住民が、女の腐ったような猜疑に満ちた繰り言で得意がってる原住民が、無性に癪に障っていたんや」

彡(゚)(゚)「あわよくばこの行為を暴いてほえ面をかかせてやりたいとも思っとった」

彡(゚)(゚)「けど原住民の行方を探すことがあんなに難しいとは、この時は全く予想だにしていなかったんや……」

~~~~

 

17: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:27:32 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「原住民は手紙にもあったように三年前から活動を始めた探偵小説家や」

彡(゚)(゚)「探偵小説自体が珍しかった上に、血みどろで、陰険で、邪悪で、不気味な作風が読者を惹きつけ一躍小説界の寵児となった」

彡(゚)(゚)「ワイも丁度同じ頃、主に少年向けに書いていた小説から探偵小説へ転向したんやが、作風は全く正反対と言っていいほど違っていた」

彡(゚)(゚)「そういう事もあって競うように批評を繰り返しては作品を発表し続けていった」

彡(゚)(゚)「実のところワイは原住民の作品が評価される度に嫉妬心を感じずにはいられなかった。どうにかして勝ちたいという気持ちがいつも心の隅にあったんや」

彡(゚)(゚)「しかし原住民は人気が衰えたわけでもないのに一年前にばったり書くのをやめてしまった」

彡(゚)(゚)「虫の好かん奴やったが、いざいなくなってみると淋しいというか、ライバルを失った物足りなさみたいなのがあったな」

彡(゚)(゚)「真剣に悩んでいるフェリスさんには申し訳ないけど、こんな形でかつてのライバルと再会できたことがちょっと嬉しくもあるんや」

 

18: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:28:04 ID:zzfk

(*^○^*)「やぁ、久しぶりなんだ!」

彡(゚)(゚)「久しぶりやな。ちょっと聞きたいことがあって来てもらったんや」

(*^○^*)「一体何なんだ?」

彡(゚)(゚)「原住民の居場所について知りたいんやが、雑誌編集者のポジハメなら心当たりあるんやないか?」

(*^○^*)「原住民……あいつはけしからん奴なんだ!」

(*^○^*)「最初はI町の小さな借家に住んでいたんだけど、名前が知られて収入が増えるにしたがって少しずつ大きい家を転々として行ったんだ」

(*^○^*)「I町、K町、N町……知ってる限りで二年間で七か所の家に住んでたんだ!」

 

19: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:28:53 ID:zzfk

(*^○^*)「ただ転居しても届けを出さないものだからいちいち探し出さないといけなかったんだ」

(*^○^*)「ようやく場所が分かって会いに行ってもほぼ門前払い、原稿のやり取りは奥さんを通じてやっていたんだ!」

(*^○^*)「ただ原住民本人とも何度か話したことがあるんだ! 多分雑誌記者の中では僕くらいのものなんだ!」

彡(゚)(゚)「はえ~原住民は雑誌の写真では中々のイケメンやけど本物もあんな感じなんか?」

(*^○^*)「多分別人の写真なんだ! 本人は若い頃の写真って言ってたけど、実際はいやに肥っていて皮膚もたるんで似ても似つかないんだ!」

(*^○^*)「僕は二、三度しか会ってないけど、話すのにもずっと布団に横になってばかりだったんだ! きっと運動不足なんだ!」

 

20: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:29:39 ID:zzfk

(*^○^*)「ところで先日、僕はあの行方不明の原住民を見かけたんだ!」

彡(゚)(゚)「ファッ!? ホンマか!」

(*^○^*)「まだ人通りも少ない朝のA公園にいたんだ。何故かピエロの格好をして近くの飲食店の広告配りをしていたんだ!」

(*^○^*)「最初は夢じゃないかと思ったけど顔が本人だったし、見ているうちに向こうも気づいたのか慌てて走り去ってしまったんだ!」

彡(゚)(゚)「原住民がピエロの格好でビラ配り……? わけがわからんで」

(*^○^*)「無表情で死んだ魚のように濁った眼が特徴的だったから間違いないんだ!」

 

21: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:30:10 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「あ、そうそう。ちょっと見てもらいたいものもあるんや。この手紙なんやけど」

彡(゚)(゚)「原稿を見たことあるんやろ? 手紙の筆跡と同じか分からんか?」

(*^○^*)「これは……確かに原住民の筆跡なんだ! それに形容詞や仮名遣いの癖も同じなんだ!」

彡(゚)(゚)「はえ~そんなことまで分かるんか」

(*^○^*)「以前彼の文章を真似て小説を書いてみたことがあるんだけど、あれはちょっとやそっとじゃ真似できない部分があるから分かるんだ!」

彡(゚)(゚)「(確かに……手紙も通して読むと原住民特有の“匂い”を感じる。小説と同じ匂いや)」

彡(゚)(゚)「実はな、原住民本人に会って話したいことがあるんや。何とか居場所を突き止めてくれんやろか?」

(*^○^*)「分かったんだ! 僕に任せてほしいんだ!」

 

22: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:31:09 ID:zzfk

翌日――――

彡(゚)(゚)「ここがポジハメの知る限りで一番最近まで住んでいたS町の家か。とりあえず近所で聞き込みからやな」

彡(゚)(゚)「結局ほとんど何もわからんかった……住んでいたのが原住民やと知ってる人すらおらんかった」

彡(゚)(゚)「引っ越し当日にトラックを見た人はおったけど、どの引っ越し屋やったかまでは知らんみたいやし」

彡(゚)(゚)「……帰って原稿完成させるか」

 

23: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:31:48 ID:zzfk

数日後――――

とうおるるるるるる、とうおるるるるるる

彡(゚)(゚)「はいもしもし」ガチャ

/|i、゚ヮ゚ハレ.「やきうさん!?」

彡(゚)(゚)「あぁ、フェリスさん」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええと、とても心配なことがありまして……一度家に来ていただけないでしょうか」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「夫は留守にしてますし召使いたちも使いに出しておりますので」

彡(゚)(゚)「分かったで。すぐに行くわ」ガチャ

彡(゚)(゚)「家に二人きり……か」

 

24: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:32:37 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「ここが矢野邸か。言ってた通り随分高い塀やな。塀の上には針までついとる」

彡(゚)(゚)「中には平屋の日本屋敷と後から建てたっぽい二階建ての西洋館が隣り合ってなんだか不調和というか、変な感じやな。裏には川が流れてるみたいや」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「やきうさん、来ていただいてありがとうございます」

彡(゚)(゚)「何があったんや?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「まずこの手紙を見てください」

彡(゚)(゚)「ええと……『フェリス、お前の苦しんでいる様子が目に見えるようだ』」

彡(゚)(゚)「『お前が主人に内緒で私の行方を突き止めようとしていることも分かっている。だが無駄だから止めておいた方がいい』」

彡(゚)(゚)「『たとえ主人に打ち明けて警察の手が入っても私の居場所は分かりっこないのだ』」

 

25: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:33:17 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「『さて、私の復讐は第二段階に入った。私が何故正確にお前の行動を知ることが出来たか、大凡察しはついてるだろうが、私はお前を発見して以来ずっと近くで見ているのだ』」

彡(゚)(゚)「『今お前がこの手紙を読んで震えている様子も、どこかからじっと眺めているのだ。そして夜の行為も眺めているうちに激しい嫉妬を感じずにはいられなかった』」

彡(゚)(゚)「『これが私の復讐心を一層燃え上がらせた。最初の予定では精一杯怖がらせた後でお前の命を奪おうと考えていたが、お前たちの夫婦仲を見せつけられているうちに予定を変えた』」

彡(゚)(゚)「『お前を殺すより先に、お前を愛している夫の命を目の前で奪い、その悲しみを十分に味わわせた上でお前の番にすることにしたのだ』」

彡(゚)(゚)「『だが慌てることはない。私は急がないのだ。精々苦しませてから実行してやろう。三月十六日深夜、復讐鬼より。フェリス殿』」

彡;(゚)(゚)「こ、こんなの妄想やろ……せや、そうに違いない」

 

26: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:33:57 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「どうか先生、もう少し静かに話してください……私、頭がどうかしたのでしょうか。でも本当に……?」

彡(゚)(゚)「何かあったんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「この家の中に初梵さんがいるんです」

彡;(゚)(゚)「えっ……どこに?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「こちらに来てください。なるべく足音を立てないように」

彡;(゚)(゚)「本当に家に忍び込んでるんか……?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「しっ! 静かに!」

彡;(゚)(゚)「……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「……」

 

27: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:34:58 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「襖の向こうは普段居間として使ってる部屋があります」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「時計のコチコチという音が聞こえませんか?」

彡(゚)(゚)「いや、時計ってどこにあるんや?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「……もう聞こえませんね。部屋に戻りましょう」

彡(゚)(゚)「今のは何やったんや?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「先程居間で縫物をしていた時のことです。女中がさっきの手紙を持ってきたので読んでみると、丁度頭の上の方から僅かな物音が聞こえてきたんです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「最初は耳鳴りかと思ったんですが、どうもそれとは違う金属が触れ合うようなカチカチという音でした」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「『どこかからじっと眺めている』と手紙に書かれていたのを思い出して、天井板の上に人がいて、その人の時計が動いている音だとしか思えなかったのです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「思い切って天井に向かって声をかけて見たのですが返事はなく、あまりの恐ろしさに思わず家を飛び出してしまいまして、公衆電話からやきうさんを呼んだのです」

 

28: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:35:34 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「屋根裏の散歩者……? まさか……」

彡(゚)(゚)「フェリスさん、ワイが屋根裏に上がって人がいた形跡がないか調べてみるで」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええ!? そんな気味の悪いことを」

彡(゚)(゚)「小説では押入れの中の天井板が開いて……お、行けそうやな」

彡(゚)(゚)「ゲホッゲホッ、年末に屋根裏も煤払いをしたと言っとったけどもう三か月も経って埃は溜まっとるし蜘蛛の巣も張っとる。実際の屋根裏なんて散歩する所やないな」

彡(゚)(゚)「しかし暗くて全く見えんわ。懐中電灯っと」ライトテラシー

彡;(゚)(゚)「……ファッ!? 埃の溜まり方が不自然や! 明らかに人の通った形跡がある!」

彡(゚)(゚)「しかも少し隙間があって居間が覗けるようになっとる。どれどれ……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.

彡(゚)(゚)「……」ゴクリ

 

29: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:36:53 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「居間にいるフェリスさんが見える……しかも普段は見れないような角度で。あぁ、うなじのミミズ腫れが背中の奥の方まで見えそうや」

彡(゚)(゚)「……はっ! アカンアカン、ワイは何をしとるんや。何か手がかりになりそうなものを探さな」

彡(゚)(゚)「しかし足跡がはっきり残ってるわけでもないし、何もなさそうや……ん?」

彡(゚)(゚)「ボタンが落ちとるで。しかしシャツのボタンって感じではないな」

彡(゚)(゚)「跡はここで途切れとる。どこまで来たんやろ。ちょっと天井板外したろ」ガシャン

彡(゚)(゚)「ここは……物置か? 鍵はついてないみたいや」ガラガラ

彡(゚)(゚)「物置から外に出るとすぐ目の前が塀や。どうも家の裏手みたいやな。出入りしてるとしたらここからやろか。塀の針を避ければ入れないこともなさそうや」

彡(゚)(゚)「種が分かってしまうとなんだかあっけないもんやな」

 

30: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:38:04 ID:zzfk

~~~~

彡(゚)(゚)「この時のワイはさっきまであった恐怖心が消え、代わりに現実的な不快感ばかりが残っていた」

彡(゚)(゚)「フェリスさんは自分の秘密がばれてもいいから警察に通報しようと言い出していたが、手の内が分かったワイはまさか小説のように天井から毒を垂らして殺害だなんて真似は出来るはずがないとそれを制した」

彡(゚)(゚)「それどころかこんな嫌がらせはさも重大な犯罪を企んでるかのように見せるだけの子供じみた発想で、それ以上の実行力はないやろうと言って慰めるだけやった」

彡(゚)(゚)「それでもあまりに怖がるものやから知り合いに頼んで物置のある塀の外を見張らせることにして、フェリスさんには普段の寝室から西洋館二階にある客用の寝室に移動するように言った」

彡(゚)(゚)「これらは翌日から実行されたが、しかし二日後の三月十九日、ついに事件は起きてしまった」

彡(゚)(゚)「矢野さんが何者かに殺害されてしまったんや」

彡(゚)(゚)「手紙には『慌てることはない。私は急がないのだ』と書いてあったにもかかわらず……」

~~~~

 

32: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:44:42 ID:zzfk

彡;(゚)(゚)「矢野さんが亡くなったってホンマですか!?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええ。昨日の夜七時頃に御友人のお宅へ出かけて、十二時までいたそうですがそれから行方が分からず方々へ聞いて回ったのですが」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「会社にも来てないようで、昼近くになった辺りで警察から連絡があって死体が発見されたと……」

彡(゚)(゚)「死体はO橋の掛かっている川で発見された。何故か全裸で、背中に何か所も刺し傷があり、カツラを被っていた」

彡(゚)(゚)「死亡推定時刻は午前一時、背中から肺に到達していた刺し傷が致命傷で、死んでから川に投げられたそうや」

彡(゚)(゚)「ワイのせいや……フェリスさんが通報しようと行った時にワイが止めていなければ……」

 

33: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:45:12 ID:zzfk

/|i、;ヮ;ハレ.「先生……」

彡(-)(-)「なんと言って詫びればええか……油断していた、原住民を軽く見ていたんや。まさか実行するだなんて思ってもみなかったんや」

/|i、;ヮ;ハレ.「……」

彡(゚)(゚)「ところで、あの脅迫状のことは警察に言ったんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「いいえ、私どうすればいいか分からなくて、先生に相談しようと思ったものですからまだ何も……」

彡(゚)(゚)「フェリスさんも犯人は原住民やと思ってるんやろ?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええ。それに昨夜妙なことがあったんです」

彡(゚)(゚)「妙なこと?」

 

34: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:45:51 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「寝室を洋館の二階に移したでしょう? これでもう覗かれる心配はないと安心してたのですが、やっぱり覗かれてたみたいなんです」

彡(゚)(゚)「どこからや?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ガラス窓の外からです。昨夜は十二時頃にベッドに入ったのですが、夫が帰らないので心配で、更に広い洋室にたった一人でいたので怖くなってきたんです」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「眠れずに窓を見ていると、外にぼんやりとですが人影が見えたんです!」

彡(゚)(゚)「見間違いってことは……?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「それはないと思うわ。髪をガラスにくっつけて、俯き気味に上目遣いでじっと私を睨んでいたのを今でも思い出します」

彡(゚)(゚)「その顔は確かに初梵やったんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「多分……でも他にそんなことをする人なんているはずがないですし」

 

35: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:46:44 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「矢野さんが実際に殺害された以上次はフェリスさんに危害が及ぶかもしれん。警察に届けて保護してもらおう」

(●▲●)「おや? やきうさんじゃないですか」

彡(゚)(゚)「あ、ケロちゃんやん。まさかこの事件の担当なんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「お知り合いなんですか?」

彡(゚)(゚)「検事のケロちゃんや。作家や医学者、法律家で作っている恩J会の会員仲間なんや」

(●▲●)「どうも、ところで矢野氏の件でお話ということですが」

彡(゚)(゚)「ああ、実はな……」

 

36: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:47:26 ID:zzfk

(●▲●)「ふむ、原住民こと初梵が犯人の疑いが濃厚と」

(●▲●)「分かりました。全力で彼の行方を追いましょう。矢野邸の巡回も強化します」

彡(^)(^)「サンキューケッロ」

一か月後――――

彡(゚)(゚)「捜査に進展なし……か」

(●▲●)「一応S町以降の引っ越し先は分かりました。最後のZ町の借家は数か月分家賃を前払いしてまだ住んでることになってたんですが、行ってみたところ家財も何もなく埃だらけでいつから住んでないのか分からなかったそうです」

(●▲●)「近所に聞き込みをしても両隣が工場に挟まれていて、普段の生活を見ていた者はいませんでした」

(●▲●)「一人ならともかく妻と二人揃って消息不明となると、既に海外に逃亡してしまった恐れもありますね。あれ以来新しい脅迫状は届かなくなったみたいですし」

彡(゚)(゚)「しかし殺人となれば警察が捜査に乗り出すことは予想したはずやろ。あれだけ復讐に執念を燃やしてた奴がこれくらいで諦めるとも思えん」

 

37: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:48:17 ID:zzfk

(*^○^*)「僕も色々調べてみたんだ!」

彡(゚)(゚)「何か分かったんか?」

(*^○^*)「A公園で原住民を見た時彼はビラ配りをしていたから、付近の広告屋を訪ねて人相を伝えてそれっぽい男をビラ配りで雇った店がないか調べたんだ」

(*^○^*)「広告屋は忙しい時には公園の浮浪者に日雇いで衣装を着せてビラ配りさせることがあるみたいで、人相を聞いてもその中の一人じゃないかと言われたんだ!」

(*^○^*)「次は深夜のA公園を調べたり、近くの浮浪者が泊まりそうな安宿に泊まりこんで宿泊者に尋ねて回ったんだ!」

彡;(゚)(゚)「お、おう……ご苦労さんやな」

 

38: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:48:46 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「ワイもあることを調べてみたら妙な事実が判明した」

彡(゚)(゚)「死体が被っていたカツラについてや」

彡(゚)(゚)「なんとかそれを作った店を探し当てたんやが、店の人が言うにはそれを注文したのは亡くなった矢野さん本人やったんや」

彡(゚)(゚)「フェリスさんは今まで矢野さんがカツラを被っているところを見たことがないと言ってたから、ワイはずっと犯人が被せたもんやと思っていた」

彡(゚)(゚)「しかし店の人に人相を確かめても間違いなく矢野さんやったから余計謎が深まってしもうた」

彡(゚)(゚)「そして捜査が進まない一方で、ワイとフェリスさんの距離は今まで以上に縮まっていった」

彡(゚)(゚)「あれは先日捜査の報告のために彼女の家に行った時の事や」

 

39: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:49:23 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「フェリスさん、御主人は乗馬の趣味があったんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「いいえ、どうしてそんなことを?」

彡(゚)(゚)「さっき寝室で小さな鞭を見つけたんや。これなんやが」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「……! そ、それはその……」

彡(゚)(゚)「まぁ事件には関係なさそうやしええか」

彡(゚)(゚)「(まさか、あのうなじのミミズ腫れは鞭で……? そういえば矢野さんが亡くなって以来段々腫れが治まってるように見える)」

 

40: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:50:28 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「今日は四月二十日、亡くなって丁度一ヵ月の法事や」

/|i、>ヮ<ハレ.「キャッ!」

彡;(゚)(゚)「な、なんや!?」

(=^・ω・^=)「ニャー」ガサッ

彡(゚)(゚)「なんや、ただの野良猫やで。そんな怖がらんでも……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「……」

彡(゚)(゚)「……」

/|i、-ヮ-ハレ.「……」

彡(-)(-)「……」

 

41: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:50:52 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「……迎えの車が来たみたいや。ほんならワイは帰るで」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「あ、おやすみなさい……」

彡(-)(-)「(よりにもよって御主人の命日にこんな事を……罰でも当たるんちゃうやろか)」

彡(゚)(゚)「……」

彡(゚)(゚)「……ん?」

(´・ω・`)「……」

彡(゚)(゚)「あ、あの、運転手さん……」

(´・ω・`)「なんですか?」

彡(゚)(゚)「その運転手さんの手袋、ちょっと見せてもらえんやろか?」

 

42: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:51:47 ID:zzfk

(´・ω・`)「ちょっと待ってください、車を停めますから。はいどうぞ」

彡(゚)(゚)「(この手袋のボタン……間違いない! 天井裏に落ちていたボタンや! しかも手袋に一か所ボタンが外れた跡がある!)」

彡(゚)(゚)「な、なぁ、この手袋、ボタンが外れてるんやけどいつ外れたか覚えとるか?」

(´・ω・`)「ああ、それは最初から取れていたんです。矢野の旦那がボタンが取れて使えなくなったからと僕にくれたんですよ」

彡(゚)(゚)「え? 矢野……って今ワイが出てきた家の矢野さん?」

(´・ω・`)「そうです。旦那が生きていた時分は会社の送迎なんかを殆ど私がやってまして、それは贔屓にして頂いてました」

彡(゚)(゚)「それで、いつからはめてるんや?」

(´・ω・`)「使うのが勿体なくてずっと仕舞ってたんですが、今まで使っていた手袋が破れてしまいまして、なのでこれをはめるのは今日が初めてです」

(´・ω・`)「しかしどうしてそんなことを?」

彡(゚)(゚)「いや、ちょっとわけがあって。せや、この手袋をワイに譲ってもらえんやろか。ちゃんと金は払うで」

 

43: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:52:24 ID:53a9
原住民やんけ!

 

44: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:53:20 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「この手袋のボタンと天井裏のボタン、間違いなく同じ物や」

彡(゚)(゚)「犯人が原住民やとして、犯行時にはめていた物と全く同じ手袋を矢野さんも使っていた……これは偶然の一致か?」

彡(゚)(゚)「まずはこの手袋の出処を調べてみんことには分からんな」

――――

彡(゚)(゚)「手袋を銀座の洋物店で見てもらった結果、あれはイギリス製で日本では売ってない珍しいものということやった」

彡(゚)(゚)「矢野氏が一昨年の暮れまで外国にいた事を考えると彼こそが手袋の持ち主で、外れたボタンもやはりあの手袋についていたものに違いない」

彡(゚)(゚)「まさか日本では手に入らない珍しい手袋を偶然原住民も所持していたとは考えられないからや」

彡(゚)(゚)「ってことはどういうことや? つまり、つまり……」

 

45: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:53:55 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「そういえば……矢野邸は川沿いに建ってるんやったな」

彡(゚)(゚)「川をUの字とすると、左上に矢野邸、右上に犯行の夜に行ったという友人宅、カーブの底が死体発見現場のO橋や」

彡(゚)(゚)「ワイらは今まで矢野さんがUの字の右上から川に沿うように歩いて、底のO橋を越えたところで殺害されて沈められたと考えていた」

彡(゚)(゚)「つまり死体発見現場イコール殺害現場と思い込んでいたわけや」

彡(゚)(゚)「けど、川には流れがある。Uの両端から底に向かって流れているんや。上流で殺されて流れてきたところを橋に引っかかったとも考えられるんやないか?」

彡(゚)(゚)「それなら本当の犯行現場はどこなのか……アカン、謎が謎を呼ぶばかりや」

 

46: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:54:37 ID:zzfk

数日後――――

彡(゚)(゚)「ようやく完成した。これがワイの推理した事件の全容や」

彡(゚)(゚)「死体がカツラを被っていたこと、それが矢野さん自身が注文したものだったこと、死と同時に脅迫状が届かなくなったこと、彼が加虐性欲者だったこと」

彡(゚)(゚)「これらの事実は一見つながりが無いようやけど、よくよく考えればある一つの事柄を指していることが分かる」

彡(゚)(゚)「それを裏付けるためにまずは彼の書斎を調べさせてもらった。すると数ある本棚の中に一か所だけ鍵のかかったものがあった」

彡(゚)(゚)「フェリスさんに尋ねると鍵は彼が常に持ってて、死の当日もそうやったみたいや。死体は持ってなかったからどこに行ったか不明や」

彡(゚)(゚)「ワイはフェリスさんを説得して本棚を破壊し中身を見た。その中にあったのは彼の数年間の日記帳、袋に入った書類、手紙の束、書籍やった」

彡(゚)(゚)「それを一つ一つ調べた結果、事件に関係のありそうな三冊の書冊を発見した」

 

47: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:55:16 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「一つ目がフェリスさんと結婚した年の日記帳や。式の三日前の日記に赤ペンでこんなことが書いてあった」

彡(゚)(゚)「『私は初梵という青年とフェリスの関係を知った。しかし彼女は初梵を嫌っており、父の破産を切っ掛けに彼の前から姿を消した。それで十分だ。私は詮索をするつもりはない』」

彡(゚)(゚)「つまり矢野さんは結婚前からフェリスさんが隠していた秘密を知っていたんや。そしてその事を何も言わずにいたんや」

彡(゚)(゚)「二つ目が原住民の短編集“屋根裏の散歩者”や。矢野さんも生前は中々の小説好きだったそうや」

彡(゚)(゚)「三つ目は慈英館発行の雑誌や。原住民の作品は掲載されてなかったが、その代わりに直筆の原稿の写真が載っていて“原住民氏の筆跡”と説明書きがされていた」

彡(゚)(゚)「原稿のページをよく見てみると文字をなぞるように細い跡が残っていた。これは紙を乗せて筆跡をトレースした跡なんやないやろか」

彡(゚)(゚)「そして別の部屋から、例の手袋と同じ手袋が発見された。フェリスさんが言うにはもう一セット同じ物があったらしいんや」

 

48: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:56:02 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「思い返せばワイらは原住民の名に執着し過ぎてはいなかったやろか。こんな犯罪は異様な作風で知られる奴しか出来ない、そう思い込んでいたんやないか?」

彡(゚)(゚)「しかし原住民が犯人とすると妙な所がある。あの執拗な復讐計画を立てた奴が夫を殺害しただけで当初の目的を忘れ中断するのは変や」

彡(゚)(゚)「それに矢野さん所有の手袋のボタンをどうやって天井裏に落とすことが出来たのか」

彡(゚)(゚)「日記帳、短編集、雑誌、手袋、ボタン……これらの事実を総合すると、ボタンを落とした、つまり屋根裏の散歩者は矢野さんだったんやないか?」

彡(゚)(゚)「その決定的証拠とも言える手袋を何故運転手にあげたのかというと、自分の家の屋根裏に潜むこと自体は別に犯罪でもなんでもないからや」

彡(゚)(゚)「本棚の鍵は特注品で本人の所持していた一本だけや。せやからあの中の日記やトレース跡のある雑誌は、原住民が矢野さんに罪を着せるために捏造した証拠と考えるのは無理がある」

彡(゚)(゚)「つまりワイらが今まで犯人と思っていた原住民こと初梵は、最初からこの事件とは何も関係なかったと考えるしかない」

 

49: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:56:29 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「矢野さんは今から約四年前、仕事の都合でロンドンを中心にいくつかの都市に二年間滞在していた。恐らくこの頃に彼の性癖が目覚めたんやろう」

彡(゚)(゚)「それは薬物中毒のように常により強烈な、より新鮮な刺激を求め続け、帰国後フェリスさんを鞭打つだけでは足りなくなってしまった」

彡(゚)(゚)「その頃に何かの切っ掛けで原住民の“屋根裏の散歩者”を知り、自らがその主人公となったんや」

彡(゚)(゚)「一方でその本の奥付には作者の本名、初梵の名が載っていた。それがかつてのフェリスの恋人であると疑った彼はあらゆる手を使い情報を集め、同一人物であると確信した」

彡(゚)(゚)「屋根裏からの覗き見は一時的に彼の欲求を充足したには違いないが、もっと何かないものかと病的ともいえる想像力を働かせ、結果初梵の名で自分の妻に脅迫状を送るに至ったんや」

彡(゚)(゚)「なんという悪魔的な発想やろう。妻が恐怖に震える様を屋根裏から眺め、打擲も続けていたんやから」

 

50: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:57:20 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「というのがワイの推理やが、では何故矢野さんは殺人事件の被害者となってしまったのか。しかも裸にカツラという奇妙な格好で」

彡(゚)(゚)「原住民が事件に関係ないとなると死体の背中の刺し傷は誰がやったのか」

彡(゚)(゚)「簡単に言ってしまえば、あれは殺人事件ではなく事故死やったんや」

彡(゚)(゚)「ワイの勧めで寝室を洋館の二階に移したことで屋根裏からの覗き見が出来なくなってしまった。そこで彼は他の方法を考えたんや」

彡(゚)(゚)「カツラを被って原住民に化け、窓の外から覗き込むことにしたんや。原住民の仕業やと信じ込んでるフェリスさんには簡単な変装でごまかせたんやろな」

彡(゚)(゚)「そうして新たな覗き見をしていたところで事故は起こってしまった。何かの拍子に足を滑らせて転落してしまったんや」

彡(゚)(゚)「その洋館と塀の間は狭くて、転落すると丁度塀の上に落ちるようになっている。そして塀の外は川が流れとる」

彡(゚)(゚)「塀は侵入防止の針がついている。背中の傷は落ちた時にそれが刺さったものや。そして塀から川に転落し死体発見現場まで流されたんや」

彡(゚)(゚)「では死体が何故裸だったのか。O橋の辺りは治安が悪くて死体から服や持ち物を剥ぎ取るくらいするような浮浪者連中がごろごろしとるんや」

 

51: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:58:23 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「この事件は最初から最後まで性癖を拗らせた夫の悪戯で、自業自得に過ぎないものや」

彡(゚)(゚)「……フェリスさん、これがワイの推理や。もう心配はない。原住民なんて最初からいなかったんや」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「あの人がそんな事をしていただなんて……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「先生、本当にありがとうございました。もう夜ですしこちらでご飯を召し上がっていってください」

彡(゚)(゚)「お、そうさせてもらうで」

 

52: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)00:58:53 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「その後、酒も入ってしばらく話してるうちに酔った勢いでワイは妙な提案をしてしまった」

彡(゚)(゚)「人目のつかない場所に家を一軒借りて、そこを逢引の場所として誰にも知られないように二人だけの秘密の逢瀬をすることにしたんや」

彡(゚)(゚)「そしてフェリスさんはそれを受け入れてくれた。こうしてワイらの逢引は二十日ほど続いた」

彡(゚)(゚)「……ある日彼女が持ってきた物に、ワイはある種の恐怖を感じずにはいられなかった」

彡(゚)(゚)「かつてワイが寝室で見つけた鞭をワイに渡して、それで打ってくれと迫られたんや」

彡(゚)(゚)「夫の加虐性欲が移り、彼女は被虐性欲者となっていたんや」

彡(゚)(゚)「どうしてもと言うもんやから最初は渋々打擲してたんやが、皮膚が毒々しく腫れていくのを見た時ワイは不思議な喜びを覚えてゾッとなったもんや」

 

53: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:00:02 ID:zzfk

二十日後――――

/|i、゚ヮ゚ハレ.「今日も来ていただいてありがとうございました。車を呼んであるのでこちらでお待ちください」

彡(゚)(゚)「すまんな」

(´・ω・`)「どうもお待たせしました」

彡(゚)(゚)「あ、あの時の運転手さん……」

彡(゚)(゚)「……なぁ、こないだの手袋の事なんやけど、あれはいつ頃貰ったんやったっけ?」

(´・ω・`)「そうですね、去年の十一月……確か給料日だったので二十八日ですよ」

彡(゚)(゚)「十一月二十八日やな」

(´・ω・`)「しかしどうしてそう手袋の事ばかり気になさるんですか? 何かあったのでしょうか」

彡(゚)(゚)「十一月二十八日……」

彡(○)(○)「十一月二十八日!!?」

 

54: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:01:33 ID:dSs4
どうなったんや

 

55: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:02:09 ID:zzfk

彡;(゚)(゚)「本当か!? その日で間違いないんか!? 裁判官の前でもそう断言できるか!!?」

(´・ω・`)「裁判官ですって? それはちょっと……ですがその日に間違いありません。私の助手も見ていたので証人もいます」

彡(゚)(゚)「ほんなら矢野邸まで引き返してくれんか、今すぐにや!」

(´・ω・`)「は、はぁ……」ギュルルッ

彡(゚)(゚)「フェリスさん!!」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「あら、忘れ物ですか?」

彡(゚)(゚)「確か去年の暮れに煤払いをした時、天井板も全部はがして灰汁洗いをしたんやったよな!?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「ええ、水洗いしただけですが灰汁洗い屋が来て板をはがしたのは確かです。十二月二十五日でした」

彡(゚)(゚)「天井板がはがされた時には既にボタンは外れて落ちていた……?」

 

56: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:03:11 ID:lM3i
どういうことや・・

 

57: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:03:28 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「いや、そんなことがあり得るはずはない。しかし時系列的にはそう考えざるを得ない……」

彡(゚)(゚)「手袋から取れたボタンが一度服のポケットに入って、知らないまま一か月……最初の脅迫状が翌二月やから恐らく三か月間経って、偶然にもボタンがポケットから天井板に落ちた」

彡(゚)(゚)「こう考えれば整合性が取れなくもないが、いくらなんでも不自然過ぎる」

彡(゚)(゚)「まさか、今までのワイの推理は全て間違っていた……? やはり本当の犯人は原住民なんか……?」

彡(゚)(゚)「……思えばこの事件、行く先々でおあつらえ向きの証拠が待ってましたとばかりにゴロゴロ出てきた」

彡(゚)(゚)「原住民も自分の作品の中で『探偵は多すぎる証拠に出会った時こそ警戒しなければならない』と言っていた」

彡(゚)(゚)「ワイはそれにまんまと引っかかって推理を誘導されていたんか……?」

 

58: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:04:23 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「そういえばポジハメがこんな事を言っていたな」

~~~~

(*^○^*)「これは……確かに原住民の筆跡なんだ! それに形容詞や仮名遣いの癖も同じなんだ!」

彡(゚)(゚)「はえ~そんなことまで分かるんか」

(*^○^*)「以前彼の文章を真似て小説を書いてみたことがあるんだけど、あれはちょっとやそっとじゃ真似できない部分があるから分かるんだ!」

~~~~

彡(゚)(゚)「筆跡は似せられても文章の癖まで似せることは難しい。何でこんな大事なことを忘れてたんや」

彡(゚)(゚)「あぁ、原住民の作品に似たような話があったのを思い出した。夫を殺人犯に仕立てるために筆跡を真似て偽の証拠をでっちあげる“一枚の切符”や」

 

59: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:05:03 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「考えてみればこの事件はまるで原住民の傑作集のようなものやないか?」

彡(゚)(゚)「天井裏からの覗き見やボタンは“屋根裏の散歩者”、筆跡を真似たのは“一枚の切符”、フェリスさんの傷が加虐趣味を思い起こさせるのは“D坂の殺人事件”」

彡(゚)(゚)「細かく見ていくと他にも色々出てくる。偶然にしては出来過ぎや。まるで原住民がワイに乗り移ったかのように作品に沿った物ばかりや」

彡(゚)(゚)「間違いない、原住民は確かにどこかで目を光らせている」

彡(゚)(゚)「しかしどこにいるっていうんや……」

彡(゚)(゚)「あ、そういえば原住民は結婚してるってポジハメが言うとったな」

 

60: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:05:30 ID:zzfk

とうおるるるるるる、とうおるるるるるる

(*^○^*)「もしもし!」

彡(゚)(゚)「ワイや。ちょっと聞きたいことがあって電話したんや」

彡(゚)(゚)「原住民の奥さんの特徴を分かる限りでええから教えてくれんか?」

(*^○^*)「えーと、丸顔で、いつも洋髪に結っていて、眼鏡をかけていて、金歯を入れていて、よく頬に歯の痛み止めの貼り薬をしていたんだ!」

彡(゚)(゚)「その貼り薬は右の頬やったか?」

(*^○^*)「よく覚えてないけど確かそうだったと思うんだ!」

彡(゚)(゚)「しかし洋髪の若い女が古臭い歯痛止めの貼り薬なんてちょっとおかしいな」

(*^○^*)「そう言われればそうなんだ! ところで事件に進展でもあったんだ?」

彡(゚)(゚)「まぁ詳しいことはまた今度話したるわ。あぁ、あともう一つ頼みがあるんやけど……」

彡(゚)(゚)「……ほなよろしく頼むで」ガチャッ

彡(゚)(゚)「……」

 

61: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:05:56 ID:zzfk

三日後――――

彡(゚)(゚)「フェリスさんから手紙や。そういえば最近会ってないな」

/|i、゚ヮ゚ハレ.『もしかすると私の淫らな正体を知ってあなたはもう私が嫌になってしまったのですか』

/|i、゚ヮ゚ハレ.『そうでないのでしたら、明日の午後三時頃、例の隠れ家でお待ちしております』

彡(゚)(゚)「なんでやろ、妙に気が進まないのは……でも行くしかないか」

 

62: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:06:52 ID:zzfk

翌日――――

彡(゚)(゚)「フェリスさん……」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「やきうさん、来てくださったのですね」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「先日灰汁洗い屋のことを聞きに戻ってきたのは何だったのですか? あなたの慌てようがどういうことなのか考えてみたんですが分からないのです」

彡(゚)(゚)「ワイは大変な間違いをやってしまったんや」

彡(゚)(゚)「天井を洗ったのが十二月で、矢野さんの手袋のボタンが取れたのはそれよりひと月以上も前やったんや。順番がまるで逆なんや」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「まぁ、そういうことだったんですか。でも屋根裏へ落ちたのはボタンが取れた後のはずですよね」

彡(゚)(゚)「後は後なんやが、その間の時間が問題なんや。ポケットに入って期間を置いて落ちたなら説明がつかないことはないが、矢野さんは去年の十一月に着ていた服で年を越したんか?」

/|i、゚ヮ゚ハレ.「いいえ、年末にはもっと厚手の服を着ていましたよ」

彡(゚)(゚)「そうなるとやっぱり変やな」

 

63: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:07:18 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「じゃあやっぱり初梵が……」

彡(゚)(゚)「せや、この事件は原住民の“匂い”があまりに強すぎるんや。それで以前話した推理を丸ごと訂正することになった」

彡(゚)(゚)「一般読者は知らんことやけど、原住民の生活は実に奇妙なんや。訪問者に会わなかったり度々転居したり、Z町に至っては借りているだけで住んですらいなかった」

彡(゚)(゚)「いくら人嫌いにしてもおかし過ぎるとは思わんか?」

彡(゚)(゚)「考えてみればワイはあいつの思うままに踊らされていたんや。あらかじめ拵えた偽の証拠を、あいつの推理を手本になぞっていただけやったんや」

彡(゚)(゚)「ホンマ恐ろしい奴やで。ワイの思考を理解してその通りに証拠を作ったんやからな。普通の探偵やない、ワイのような推理好きの小説家やないとあかんかったんや」

彡(゚)(゚)「しかし原住民が犯人やとすると色々無理がある。それがこの事件の難解たる所以になってるんや」

彡(゚)(゚)「その無理とは突き詰めると二つ。一つは脅迫状が矢野さんの死後届かなくなったこと。もう一つは日記帳や雑誌が矢野さんの鍵付きの本棚にあったことや」

 

64: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:08:19 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「この二つだけがどうしても辻褄が合わないんや。脅迫状では夫の次はフェリスさんの番やと書いてたのに二か月経っても音沙汰がないやろ?」

彡(゚)(゚)「日記帳は矢野さんの筆跡を真似て書き込むことは可能やし、雑誌のトレース跡も簡単に作れる」

彡(゚)(゚)「けど鍵は矢野さんが持ってた一本だけや。それをどうやって手に入れたか、そしてどうやって書斎に忍び込んだのか?」

彡(゚)(゚)「最近会えなかったのはそこをずっと考えてたからなんや。そしてようやくたった一つの解決方法を見つけた」

彡(゚)(゚)「さっきも言ったようにこの事件は原住民の“匂い”が強い。やから原住民の小説に何か鍵があるんやないかと思って読み直してみた」

彡(゚)(゚)「それからこれはフェリスさんには言ってないことやけど、ワイの知り合いがA公園でピエロに扮した原住民を見たそうなんや」

彡(゚)(゚)「けど広告屋に聞いてみるとそれは公園の浮浪者としか考えられないらしい」

彡(゚)(゚)「これはまるでジキルとハイド、原住民の小説でいうところの“一人二役”や“パノラマ島奇談”やないか?」

 

65: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:09:37 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「私怖いわ、もうよしましょうよこんな話。それは後にして今日は遊びましょうよ。私、あなたといれば初梵の事も思い出さずに済みますもの」

彡(゚)(゚)「まぁまぁ、事によっては命にかかわることやから。もし原住民がまだフェリスさんを狙ってるとしたらな」

彡(゚)(゚)「次にワイはある不思議な一致を二つ見つけ出した。この地図を見てくれ」

彡(゚)(゚)「ワイは原住民の住所を聞いて地図に書き込んだんや。I町、K町、N町……最初の二回はずいぶん距離が離れてるけど、それ以降は地図で見ると狭い地域に収まってることが分かる」

彡(゚)(゚)「最初は丁度原住民の名が知られて記者が押しかけるようになった頃やから、遠くに引っ越すのはよく理解できる」

彡(゚)(゚)「ところで、N町以降の七か所を線でつないでみるとどうも不規則な円を描いてるらしいことが分かる。ワイはこの円の中心に事件解決の鍵があると思うんや」

 

66: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:10:16 ID:zzfk

/|i、゚ヮ゚ハレ.「私、そんな怖い話で大切な時間を消してしまうのが惜しくてたまらないわ。さぁ、私を抱いて、ね? 私を抱いて」

彡(゚)(゚)「もう一つの一致は時間や。原住民の名前が雑誌から消えたのは一昨年の暮れから。そして矢野さんが帰国したのは……それも一昨年の暮れやったな」

彡(゚)(゚)「つまり矢野さんの帰国と同時に原住民が活動を停止した。これは偶然やろうか? どう思う?」

/|i、>ヮ<ハレ.「それがどうしたって言うの! さぁ、私を鞭で打って! 早く! さぁ!」

彡(゚)(゚)「この事件の中に原住民が存在することは明らかな事実や。しかし一方で警察が丸二か月かかっても探し出すことが出来ず、煙のように消えてしまったんや」

彡(゚)(゚)「何故原住民はフェリスさんを殺そうとしないんや。何故突然脅迫状を送るのを止めてしまったんや」

彡(゚)(゚)「あいつはどんな方法で書斎に侵入したんや。どんな方法で鍵付きの本棚を明けることが出来たんや」

 

67: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:11:11 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「ワイはある小説家を思い出さずにはいられなかった。女流探偵小説家のマミや。世間はマミをボーイッシュな女やと思ってるが、本当は男なんや。しかも政府の役人でもあるんや」

彡(゚)(゚)「探偵小説家なんてワイにしろ原住民にしろマミにしろ、皆あたおかなんや。男なのに女に化けてみたり、ある作家は夜に女装をして男と恋のまねごとをしたそうや」

彡(゚)(゚)「さぁ、ワイの推理が間違ってないかよく聞くんや。原住民の住所をつないだ円の中心はどこか、地図を見るんや。フェリスさん、あなたの家や。全部あなたの家から車で十分以内の所ばかりや」

彡(゚)(゚)「矢野さんの帰国と同時に、何故原住民は姿を隠したんや。もう茶道や華道の稽古に通えなくなったからや。あなたは矢野さんの留守中、毎日午後から夜まで教室に通っていたんやろ?」

彡(゚)(゚)「そもそもワイに推理をさせたのは誰や。フェリスさん、あなたや。日記帳に文言を書き加えるのも、その他の証拠品を本棚に入れることも、ボタンを屋根裏へ落としておくのも、あなたなら自在にできるんや」

彡(゚)(゚)「ワイはここまで考えたんや。他に考えようがあるか? さぁ返事をするんや!」

/|i、;ヮ;ハレ.「そんな、あんまりです……そんなこと……」

 

68: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:12:15 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「何故泣くんや? さっきから何故ワイの推理をやめさせようとするんや? それはあなたにとっては命がけの問題やからや。それだけでもワイはあなたを疑わずにはいられないんや」

彡(゚)(゚)「まだ終わりやない。原住民の奥さんは何故洋髪に結って丸顔に見せて、眼鏡をかけて、金歯をはめて、貼り薬をしていたんや?」

彡(゚)(゚)「あれは原住民の“パノラマ島奇談”の手法そっくりやないか。それから“二銭銅貨”には健康な歯の上に金歯を被せる変装が出てくる」

彡(゚)(゚)「あなたは目立つ八重歯と黒子を持っている。それを隠すために金歯を被せ、貼り薬をしたんや。髪型を変えて丸顔に見せるくらいなんでもないことや」

彡(゚)(゚)「ワイは一昨日、知り合いにあなたを見せて原住民の奥さんに似てないか確かめさせた。すると髪型を変え、眼鏡をかけ、金歯を入れたらそっくりだと言ったんや」

彡(゚)(゚)「さぁ、全て白状するんや。もうすっかり分かってしまったんや。まだワイをごまかすつもりか!」

 

69: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:12:51 ID:zzfk

/|i、;-ヮ-ハレ.「初梵……初梵……」

彡(゚)(゚)「初梵? まだワイをごまかすつもりか。あなたが原住民の奥さんに化けたなら原住民は他にいるはずやとでも言うんか。原住民なんておらん。あれは全く架空の人物なんや」

彡(゚)(゚)「それをごまかすためにあなたは奥さんに変装して雑誌記者に会ってたんや。しかしまるで架空の人物ではごまかせない人もおるもんやから、A公園の浮浪者を雇って座敷に寝かせておいたんや」

彡(゚)(゚)「原住民がピエロに化けたんやない。事実は逆で、ピエロの男が原住民に化けていたんや!」

彡(゚)(゚)「……ワイはもっと冷静に話すつもりやった。でもフェリスさんがあまりにワイの話を避けようとするもんやからつい力が入ってしまったんや」

彡(゚)(゚)「最後にあなたがやってきたことを順番に話していくで」

 

70: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:14:02 ID:lM3i
まみ男やったんか!

 

71: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:14:23 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「あなたは理知と文才に恵まれた人や。ワイにくれた手紙だけでもよくわかる。そんなあなたが好きな探偵小説を自分でも書こうという気になってもちっとも不思議やない」

彡(゚)(゚)「それが意外に好評を博して有名になりかけた頃に矢野さんが二年間も外国に行くことになった。その淋しさを紛らわせるためにふと一人三役というトリックを思いついた」

彡(゚)(゚)「あなたは“一人二役”という小説を書いているが、それを上回るとんでもない物を思いついたんや」

彡(゚)(゚)「まず初梵の名前でN町に家を借りた。その前のI町とK町は手紙の受け取り場所として借りてただけやろな」

彡(゚)(゚)「そして人嫌いとか病気とか理由をつけて、初梵という男を世間から隠し、あなたは初梵夫人に化け、初梵に代わって手紙や原稿の話までの一切をやりとりしていた」

彡(゚)(゚)「つまり原稿を書く時は原住民こと初梵、記者に会う時は初梵夫人、矢野家では矢野夫人になりすましていた。これが一人三役や」

 

72: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:15:30 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「それを成立させるためにほぼ毎日のように午後は習い事と言って家を空けていた。午前は矢野夫人、午後は初梵夫人と使い分けていたんやな」

彡(゚)(゚)「しかし変装には髪を結い直したり着替えたり時間がかかるもんやから、あまり遠くに家を借りることが出来なかったんや」

彡(゚)(゚)「これが矢野邸を中心に車で十分程の所に借家が集中してた理由や」

彡(゚)(゚)「いつかある批評家が原住民の作品を『女でなければ持っていない不愉快なほどの猜疑心に満ちている。まるで暗闇にうごめく陰獣のようだ』と評してたが……」

彡(゚)(゚)「まるで、やない。あの批評家は本当のことを言ってたんや」

彡(゚)(゚)「そのうちに短い二年間が過ぎ矢野さんが帰ってきた。もう前のように一人三役をこなすことはできない。やから原住民は行方不明になったんや」

彡(゚)(゚)「原住民の人嫌いは知られていたから突然の行方不明も疑われることはなかった」

 

73: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:16:08 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「ワイが分からないのは、あなたが自分自身に脅迫状を送るなんていうことをやろうと思った動機や」

彡(゚)(゚)「ある心理学の本によれば、女性は自分でも怖がり他人にも気の毒がってもらいたい、かまってちゃんと言われる性質があるらしいから恐らくそれなんやろうなとは思う」

彡(゚)(゚)「同時にあなたは夫に不満を感じるようになってきた。そして夫の不在中に経験した生活に戻りたい、いや、もっと言えば、あなたは犯罪そのものに言い知れぬ魅力を感じるようになっていたんや」

彡(゚)(゚)「都合よく原住民という完全に行方不明になった架空の人物がいる。こいつに疑いを向ければ、あなたは安全に夫と別れ、莫大な遺産を受け継いで余生を過ごすことが出来たやろうな」

彡(゚)(゚)「しかしそれだけでは満足できなかったあなたは二重の予防線を張ることにした。それで選ばれたのがワイやったんや」

彡(゚)(゚)「原住民の作品を批評するワイを操り人形にして仕返しをしてやろうと考えたわけや。ワイが最初の推理を聞かせた時はどれだけ可笑しかったことやろうな」

 

74: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:17:28 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「しかし犯罪者はどこかにほんの些細な綻びを残してしまうもんや。手袋から取れたボタンを拾って証拠品に使ったはいいが、それがいつ取れたかまでは調べていなかった」

彡(゚)(゚)「手袋がもうとっくに運転手の手に渡っていたと知らなかったんやな」

彡(゚)(゚)「矢野さんの致命傷はやはり塀の針やろう。違うのは、事故やなく恐らくあなたが突き落としたんやないかってとこや」

彡(゚)(゚)「……さぁフェリスさん。ワイの推理は間違っていたか? 返事をしてくれんか? 出来るならワイの推理を打ち破ってくれんか?」

/|i、-ヮ-ハレ.「う……うぅ……」シクシク

彡(゚)(゚)「……何もないなら帰らせてもらうで」

彡(゚)(゚)「後でよく考えるんや。そして正しい道を選ぶんや。ワイはこのひと月で、まだ経験のなかった世界を知ることが出来た。全部あなたのおかげや」

彡(゚)(゚)「正直なところ今でもあなたと離れたくはないんや。けど、このままの関係を続けていくのはワイの良心が許さんのや……ほな、さいなら」

 

75: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:18:07 ID:zzfk

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彡(゚)(゚)「フェリスさんの自殺を知ったのはその翌日の夕刊やった」

彡(゚)(゚)「多分、矢野さんと同じように洋館の二階から身を投げたんやろう」

彡(゚)(゚)「恐ろしい因縁の深さを感じたのは死体が同じO橋で発見されたことや。川の流れが一定やからそうなったんやろな」

彡(゚)(゚)「何も知らない新聞記者は『矢野氏と同じ犯人の手にかかってあえない最期を遂げたのだ』と書いていた」

彡(゚)(゚)「ワイはこの記事を読んで、最初はこの死が自分自身の罪の自白も同然やと思っていた」

彡(゚)(゚)「しかし時が経ち当時の興奮が醒めるにつれ、段々ある疑惑が頭をもたげてきたんや」

 

76: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:18:59 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「ワイは最後までフェリスさんから直接罪の告白を聞いたわけではなかった」

彡(゚)(゚)「勿論証拠は幾つもあったが、解釈次第で結果が変わりそうな状況証拠でしかない」

彡(゚)(゚)「現にワイは推理を一度組み立てておいて、全く同じ証拠からまるで正反対に解釈し直して再び推理したんやから」

彡(゚)(゚)「最初はあそこまで問い詰めるつもりはなかったんや。静かに話をして弁明を聞くつもりやった。けど彼女の態度がワイの邪推を誘って、断定するように追い詰めてしまった」

彡(゚)(゚)「最後に念を押した時も黙って何も答えなかったもんやから肯定と捉えてしまったが、それはワイの一人合点やなかったか?」

彡(゚)(゚)「確かに彼女は自殺をした。……いや、本当に自殺やったのかも今では分からん。もし他殺なら怖ろしいことやが、自殺やとしてもそれは罪の告白と言えるやろうか」

彡(゚)(゚)「例えば、頼りにしていたワイから疑いの目を向けられ責め立てられたために絶望し身を投げたとか……」

彡(゚)(゚)「そうやとすれば直接ではないにしろ彼女を殺したのはワイってことになるんやないか?」

 

77: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:19:35 ID:zzfk

彡(゚)(゚)「彼女は明らかにワイに恋をしていた。聡明な彼女にとって自由も財産も、殺人犯になるには足りん。なるとしたらそれは恋や。そしてその恋人は他ならぬワイやなかったか」

彡(゚)(゚)「この疑惑をどうしたらええんや……他殺にしろ自殺にしろ、ワイは彼女を殺してしまったんや。あの清く美しい恋を無残にも打ち砕いてしまったんや」

彡(゚)(゚)「もし彼女がワイの想像した通り原住民その人であの恐ろしい殺人を犯したのならまだ安心できる。けどそんなものは確かめようがない」

彡(゚)(゚)「ポジハメは彼女が原住民の奥さんに似ていると言った。しかしあくまで似てるだけや。証拠としては弱い」

彡(゚)(゚)「警察の捜査も相変わらず進展はないし、本物の初梵がどこかに実在してないかと僅かな希望をもって調べてもらったが行方は分からなかった」

彡(゚)(゚)「ワイは自分の推理癖を、妄想癖を悔やんでも悔やみきれん。出来ることなら初梵の、原住民の行方を捜すために、無駄と分かっていても全国を回りたいとすら思っている」

彡(゚)(゚)「しかし原住民が見つかって、そいつがフェリスさんを殺したのだと分かったとしても、ワイの苦痛は癒えることは決してないんや」

彡(゚)(゚)「フェリスさんの死からもう半年にもなるが、ワイの取り返しのつかない恐ろしい疑惑は日々深まっていくばかりや……」

-完-

 

78: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:22:13 ID:zzfk
江戸川乱歩の「陰獣」をAAとセリフ調で書いてみたで

 

79: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:23:28 ID:lM3i
タイトルは聞いたことあるけどこんな話なんか
結局犯人は誰なんや?

 

80: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:25:52 ID:zzfk
>>79
明確に誰が犯人か分からないまま終わるんや

 

81: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)01:28:43 ID:lM3i
>>80
はえ~サンガツ
後味悪い感じなんやね

 

83: 名無しさん@おーぷん 21/06/06(日)08:38:47 ID:fwmJ
めちゃくちゃ面白かったわサンキューイッチ

 

 

引用元

https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1622906414/

 

 

ワイはやきう

SSはええな。わかりやすい